ハブラシ:...............................「東京サイレントナイト」(6/27発行予定)より
※性的な表現があります。ご注意ください。(R15)






「ん………っ、トム……さ……」
「んー、あれ? やだった?」
「いや……ちがくて……ここ、道端なんで……」
「ああ、ワリ」
 誰も周りに居ないとは言え、外では恥ずかしいのか、静雄はすっと俯いた。昼間の仕事中とかキレている時からは想像もできない平和島静雄の姿である。ま あ、女々しくはないのだけれど、ギャップはあるよなあ、とトムはそんな後輩兼恋人を見て思う。白い頬は赤く染まり、嫌じゃないんですけど、ともぞもぞと言 う彼を、おーおーまじでかわいいなあ、とも。
 トムが静雄に告白されたのは、もう一ヶ月以上前のことだ。酔っぱらった勢いというかなんというか、タイミングよく告白されて、そして、ああ、かわいいな と素直に思った。返事は待ってくれと言ったものの、そのままの関係だけかというとそうではない。今までのただの「仕事後の食事」の後にどちらかの部屋に 行ったりもするようになった。トムの部屋の方でどちらかが料理して食べたりも。
 あとは、今さっきみたいに ―― キスとか。
 結局はそのまま付き合っているようなものだ。トムの生活の一部に、今まで以上に静雄は入り込んでいたし、静雄の生活に対してのトムもまたそうだった。
「明日はもう土曜日かー! やーっと週末!」
「っすねー」
「なあ、静雄、今からうち来いよ。この前言ってた中華つくって。俺、かに玉たべてー。あとホイコーロー」
「いーっすけど……スーパー寄りますか?」
「おう。材料は俺持ちでいいからさ。あとビール切れそうだから買ってこうぜ」
「はい」
 そう言うと、二人は目的地の方へ歩をかえた。あとー、とトムはさりげなくそのまま続ける。
「明日予定あるか?」
「いえ……たまってる家事しようかな、くらいっす」
「じゃあさ、泊まっていけよ」
「えっ?」
「パンツと歯磨きセットだけ買ってくべ」
「え……っ、あっ、は……はい……」
 トムの提案に静雄はどもりながらも応える。そして、トムの後に緊張しながらついていくのだった。トムはそんな彼の状況を分かりながらも、んーと、と ちょっと後ろの表情を予想しながら、気にしないふりをして前に進んでいった。
(……ぜってー真っ赤だよなあ)
 別に意味はないんだけど、なんて思いつつ、まあ、お泊まりでもいいよな、とトムは暢気に構える。
(すぐにできるなんて思ってねーし……静雄、俺に告った時は『男が好き』っぽいのにおわせてたくせに……全然ダメだったもんなぁ)
 そう思って、二週間ほど前に静雄の部屋に泊まりにいった時のことを思い出していた。
 その時で静雄の部屋に泊まるのは数回目だ。しかし、今までとは「意味」が違う。もう何度かキスもしているし、その日も唇を重ねているうちに……当然なが ら変な気分になった。トムがキスをすすめていくと、静雄の体がびくびくと震え出す。どこかぎこちなくて、そう……一線をこえたのがわかり、トムは静雄の体 を弄っていった。
 指先でその白い肌を撫でていくと、思った以上に滑らかで、同じ男の体とは思えなかった。とは言え、驚くくらいに筋肉があり、かつ、それはしなやかで柔ら かく……上半身を剥いただけでも、こいつの筋肉って常人とは違うんだな、と素人目に分かるくらいであった。
 ただ、その超越した体躯よりも、トムの視線を惹き付けたのは、その薄い肌が赤く染まる様と、小さくも感じている胸の突起であった。それに気付き、恥ずか しそうにしている後輩の姿に……一気に欲情した。
 自分の肌が浅黒目なのもあり、白い肌を辿る自分の指がこんなにエロく見えるものなのかと、ぼんやり色の対比を思った。
 一方の静雄は一瞬戸惑っていたようにも見えたが、上半身裸のままで、互いに服を脱がせ、唇をあわせ、肌と体温を共感していくのに抵抗はなかった。目の前 の睫毛が揺れ、いつもはつり上がった眉が少し悩ましい曲線を描いていた事を、トムは今もまだ鮮明に覚えている。あんなに熱に浮かされていたのに、ああ、男 なのになあ、と自分が今までになく興奮していたことまでも含めて、全てが記憶に色濃く残っていた。
 静雄のアパートの床の上で、その辺にビールの空き缶を置きっぱなしで、どちらからともなく、性器までも触り合い、濡れていった。静雄は普通に……あまり 人との接触に慣れていないのか、胸や腰のあたりを触る度に、空気だけのような声を押し殺し、必死で声を耐えていた。
 それがたまらず漏れた時が楽しい……と言っては怒られそうだが……トムには本当に興味深くて、ついつい意地悪のようになで回した事を覚えている。
 しかし、互いに達した後、トムがゆっくりと静雄のパンツを抜き、べたべたに汚れた下着を抜き、入れられるかな? と思って、静雄の後ろに手をまわした時に、それは起こった。最後までする気など到底なかったので、何の準備もしておらず、だした精液で適当に濡らしただけ だったのもよくなかったのかもしれないが、トムが指を少しいれた瞬間……静雄の体の強ばり方が半端なかったのだ。
 そう、指をもっていかれるんじゃないかというくらいに。
(……ありゃー……無理だわぁ……)
 本当に一瞬指ちぎれんじゃねーかって思ったもんな……とトムは思い出してはぞっとした。
(前に『力がコントロールできるようになった気がする』って言ってたけど……意識して、の時だろ? 静雄、えっち慣れてなさそうだもんなあ……混乱してたら、そりゃ力のコントロールもきかねえべ………)
 俺も男相手はさすがにうまくリードできねえし、とトムは幾分凹みながら、到着したスーパーでかごをもつ。すぐにそれを静雄が持って、材料を二人でぽんぽ んとその中に入れていく。
(こういうの……楽しいし、それだけでいいかあ……)
 真剣に食材を見ている静雄をふと見て、トムは思わず微笑んだ。
 かわいい後輩だ。今でもそれは変わらない。無口で変わっていて、見ていて飽きない。それに自分のことが好きだという。一途なのはわかっているし、もしか したら、ずっとそう思ってくれていたのかも、なんて思うと気分もいい。
(ほんっと犬みてえ。かわいいなあ、こいつ)
 食材だけを揃えて満足している静雄に、トムがからかうように、お前、パンツのサイズいくつなん? と訊いた。そんなの訊かなくてもおおよそわかるだろうに。そして、真っ赤な静雄が下着をかごにいれている間に、歯磨きセットを放り込む。これはうちに常備 しておこうとこっそり思いながら。


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付き合い始めのトムシズ。こんなかんじでトムシズは初えっちへの道を歩み出すのです。
静雄は料理できなさそうだけど、トムさんが料理できるといい男過ぎるので捏造しました。
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